石森章太郎は知っていた? 『バッタを倒しにアフリカへ』(前野 ウルド 浩太郎 光文社新書)

 

こんなバッタの生態、知ってた? 

空を黒く覆い尽し襲い来る謎の群れ。飛び去った後は一片の緑もなく、茫漠たる茶色の大地が果てしなく広がる‥‥。 あなたもきっと聞いたことがあるイナゴの襲来の描写です。 でもこれ、実はイナゴではないのです。これはバッタです。 

この恐怖の”イナゴ”群団の構成員、じつは、普段はばらばらで静かに暮らす昆虫なのです。それがある時、ある数を超えると、突如色を変え姿を変え群れなして空を飛び始めます。これが相変異で、前者を孤独相、後者を群生相といいます。(本文p112参照)

孤独相では茶色や緑色だった身体が、突如黄色と黒になり(なんとも強烈な色彩!)、飛翔のために後脚は大きく成長を始める。個体数の増加が食糧難を予見し、埋め込まれた遺伝子が生き延びるための”変身”スイッチをオンにする。そして群れなして飛翔しては緑の大地を食い尽くし、食い尽くし、食い尽くし、また飛翔する。種が生き延びるための、なんともダイナミックにして精巧なる設計図を持つものたち!

ところが、相変異をするのはバッタだけです。相変異をしないものはイナゴに分類されています。ですから、イナゴの襲来は正しくはバッタの襲来です。ちなみに、よく野原で見かけるショウリョウバッタやおんぶバッタは、相変異をせず、イナゴに分類されすものです。

仮面ライダーはバッタがモデル 

さて、本題です。子どもたちの永遠のヒーロー「仮面ライダー」、言わずと知れたバッタ顔です。石森章太郎は、バッタがこのような変身能力を持っていることを知っていて、この話を作り上げたに違いない。バッタのこの偉大なる変身の力をヒーローに投影し、子どもたちに夢を届けようとしたに違いない。―――と私の脳は走り出したのですが‥‥。

本当は髑髏が良かった

毎日放送で仮面ヒーローを作ろうとしたとき、石森章太郎は髑髏の顔をした「スカルマン」を押していたそうです。しかしながら髑髏のヒーローは受け入れられず、しかたなくそれに近いグロテスクな物としてバッタ顔を提案したといいます。これも相当な反対にあったそうですが、バッタが人間大になったらすごい跳躍力だとか無理矢理理由をつけて、強引に押し通したということです。  ※kazu200さん参照

バッタのたましい 

と言うわけで、私のロマンチックな空想は打ち砕かれてしまいました。が、実はこれこそバッタのロマンを現すものとは言えないではないでしょうか? 混み合うと変身するという特殊能力をもつバッタの種族のたましいが、その事実を知らぬ石森章太郎を動かし操り、変身ヒーローとして自らを誕生させ、日本の子どもたちに永遠のヒーローとして愛され続ける‥‥。

バッタ万歳!

種の繁栄を至上命令として命をはぐくむ、地球上のすべての生き物を代表するのものとして、バッタに幸運あれ!