活字と音符 『蜜蜂と遠雷』 恩田陸  (幻冬舎)

眠くならないクラシックコンサートは、初めてかもしれない。いつもすぐに眠くなるのに―-―。

 

本を開いたその時から、私はコンサート会場にいた。流れ出るピアノの音色を聞き漏らさないよう、私の目は必死に活字を追った。ピアニストの指の動きに釘付けになりながら、心で直に音を聴いていた。そこに聴覚はなく、心の鼓膜にピアノの音が鳴り響き、私は音楽のうねりに身を任せた。

 

一気に読み終えると、私はピアノ弾きの友人にラインをした。          「『密蜂と遠雷』読んだ? コンサートに行く以上に音楽を感じた。 活字から心に音が流れ込んでくるなんて、初めての体験。感想聞かせて!」              「10年位前の漫画のぱくりだね。アニメにもなったよ。話は漫画で音はアニメだね。」なんともつれない返事。                              「活字だから、読者の好きな音が脳で再生されるで! 音楽の感動は生音に限る。あんたは自分を培った要素に言語が大きくあるから敏感に反応するのやろうね。 私は高校のクラス分けの時から、音楽と美術から離れられない。だね!」

なるほど。

私には、最高のピアニスト達による紙上コンサートだったというわけだ。拍手喝采